にゃびに贈るにゃびの詩(うた)
もくもくと雲に覆われた月が苦笑いしている。
キミは、その向こうへ飛んで行ってしまったね。
ボクは長距離を走るのが苦手だから、
ゆっくりと歩いて行くよ。
これでもうキミは、
寝相の悪い飼い主にベッドから追い出されることも、
盛りつけ方のヘタクソなご飯を出されることも、
凶暴でどん欲なカメラを向けられることも、
──みんな、なくなったね。
これからのボクは、
トイレの掃除やご飯の準備などの楽しいメンドウも、
アンプの上で寝るキミを起こさないための工夫も、
ふすまをすこしだけ開けておく気づかいも、
──みんな、いらなくなったよ。
手に入れたくない自由もあるんだな。
かけがえのない不自由もあるもんだ。
でもいま見たら、いつものクセでふすまを開けていた。
──鈴の音を身につけたキミが入ってくる。
──ボクはかがんでそっと頭をなでる。
そんな何でもない、二度と来ない日々が楽しかったな。
そういえば、ケンカしたことはなかったね。
ボクがそっちへ行ったときには、
ダンナと子どもと、一緒にかかってきなさい!
それまでボクは、せいぜいツメを研いでおくよ。
──弱虫な飼い主より、愛を込めて
──本当にありがとう、にゃび