猫を埋めた日

土を掘って猫を埋めた。

 

近所の公園で よく見かけていた猫だ。

とくに名前も付けず、「茶虎の中茶猫」と呼んでいた。

オレンジっぽい茶虎だし、中くらいの大きさだからだ。

今ごろになって「茶」がカブっていることに気がつく。

その程度にしか思い入れがなく、なんとも物悲しい。

 

中茶猫は産まれてから二年目だった、と思う。

しばらく見かけなかったが、一週間ほど前に急に現れた。

ガリガリに痩せていたし、数日前からは寝てばかりだった。

寝ていた場所は、林の中に置いてある発泡スチロールの箱だ。

誰かが箱を置いて、中にシーツが敷いてあった。

ここ数日は雨が降っていたのだが、中は濡れていなかった。

ビニール傘が立てかけてあったし、木の枝も傘になっていた。

 

その箱の中で、茶虎の中茶猫は亡くなっていた。

 

その光景は、何というか壮絶だった。

まず目に入ったのは、蠅の群だった。

箱の前には、誰かが置いていったエサがある。

そのエサに蠅が大量に たかっていた。

「まあ、生のエサを野外に置いたら こうなるよな」

と軽く考えつつ箱の中を見る。

 

箱の中には、二匹の猫が仲良く抱き合って寝ていた。

 

もう片方の猫のことを自分は「マダラ猫」と呼んでいる。

猫の種類的には「ゴマサバ」なのだが、なんとなくマダラにした。

マダラは一年前、気がつくと公園にいた。

たぶん最低でも産まれて2-3才には なっていると思う。

大きな体だがガリガリで、あばら骨や背骨がゴツゴツしている。

最初から、見るからに「年を取って捨てられた」感じだった。

それからずっとエサと水をあげて撫でている。

顔を撫でると、うれしいのか2本足で立ち上がって喜ぶ。

「もっと撫でてほしい」と言わんばかりに顔を手に押しつける。

目やにと鼻水が固まっていて、ぱっと見は薄汚い野良猫だ。

しかし、上記の「撫でてポーズ」が かわいらしい。

そのマダラも、暑くなってきた五月くらいから弱っている。

いつ見ても同じ場所で寝ているし、撫でても起きてこない。

 

そして今、先に旅立った中茶猫の横でマダラは寝ていた。

 

中茶猫は、かっと目を見開き4本の足をピンと伸ばしていた。

とても「安らかに天に召された」感じには見えない。

まあ、過去に飼っていた猫も亡くなった時は同じだった。

そんな中茶猫にもハエにも気がつかず、マダラは寝ている。

 

──ゾッとした。

 

まだまだ人通りの多い夕方だった。

しかし、幸いにして林の中に猫がいることを知る人は少ない。

木に隠れているし、箱の中の惨劇は誰も見ていないだろう。

 

ということで、急いで箱の中からマダラ猫を出した。

マダラは何が起こったのか分からず、二重に気の毒だ。

ともかく箱ごと中茶猫を移動した。

──ハエを手で追い払いつつ……。

 

気が動転しつつも公園内の道具置き場を探す。

幸いにして軍手も持ってきている。

シャベルを見つけたので林の中で作業を始めた。

──夢中で穴を掘ってきて気がつかなかった。

その場所は、駐車場から丸見えだった。

公園の関係者に見られていたら、説明が大変だっただろう。

そのことに思い至った頃、ちょうど作業の折り返しになる。

 

ちょうど「猫一匹分」の穴が空いていた。

 

茶虎の中茶猫を穴の中に置いた。

そこで始めて気がついた。

完全に体は固まっているのだが……。

 

──まだ体が温かいのだ。

もしかして、生きているのでは?

 

そう思って何度も何度も心臓の鼓動と呼吸を確かめた。

軍手越しにも猫の体温は伝わってくる。

しかし、完全に心臓も息は止まっているのだ。

あと、目を閉じさせようと思ったが動かなかった。

十分に確認したあとで、茶猫の上から土を被せる。

 

作業を終えて、マダラ猫の所へ戻った。

マダラは昨日までと・先ほどまでと同じように眠っている。

友だち(恋人?)が いなくなったことにも気がついていない。

それは幸か不幸か分からない。

 

いまごろ書くが、中茶猫はメスでマダラ猫はオスだ。

冬頃から二匹で仲良く歩いている姿を見た。

ほんの数か月前が、もう永遠に遠い。

 

上記のことは、決して褒められた行為ではない。

公共の場所で勝手に野良猫にエサをやり、勝手に埋めた。

「何とか条例」とか「何とか法」にも触れていそうだ。

誰かに褒めてほしいわけでも、分かってほしいわけでもない。

ただ、どうしても文字にして・形にして今の気持ちを残したかった。