その日、確かに天使を見た

「天使が舞い降りたような」

──なんとも陳腐で、それでいて余り聞かないような表現。そうそう耳にすることはない。

自分は、一度だけ上記のような表現を使いたくなる状況になったことがある。

時は西暦1999年。

自分は、ゲームセンタでバイトをしながら休日にコンビニでバイトをしていた。週七日勤務。週休、ゼロ日。

場所は、そのコンビニ。

バイト中か、買い物中かは忘れたが、突然、

──天使が舞い降りた、のかと思った。

急に目の前に真っ白い光が差して、なにやら《人知を越えたモノ》が現れたような──気がしたのだ。

原因は、店内に流れた一曲の歌だった。

──フランス語、だろうか。英語かも知れない。すくなくとも日本語ではない。──天使語、というものがあるとすれば、それだろう。

わずか数分だが、貴重な体験をした。──あれは、誰だろう。誰が歌っていたんだろう。

数日後、あっさりとその曲のことが判った。

──椎名林檎『ここでキスして。』

嘘のような本当の話。「天使が〜」というような体験は一度限りで、いまでは普通に聞いている。歌詞が何語か判らない、なんてこともない。

しかし、あの体験は真実だ。あの日からいままで、自分の中で一番好きな歌い手は、椎名林檎さんだ。まぁ、あの日あの時あの場所で出会わなかった、としても椎名林檎ファンになったことは間違いないが。



上記の体験の後、しばらくしてからプロモーションビデオを見た。

──なんだ、矢っ張り天使が歌っているじゃないか。