脳内Y君のこと
二十歳のころ、ゲームセンタでバイトしていた。ほとんど一人で店番をする、という状態が5年続いた。
初めのころは、気が合う同僚や友達に恵まれた期間もあった。しかし、段々と同僚はバイトをやめていった。
一日中ひとと会話することがない、という日が続くことが多かった。
新しく入ってきた同僚が、ほとんど唯一の友達、という時期の話。
一人で店番をしていると、たまに「もっと店内をキレイにした方が」と思うことがあった。
自主的に掃除をすると、同僚Y君が、「○○君は凄いな!」とほめてくれた。
──Y君は、細かいところに気がつき、素直に人をほめることができる、いい奴だった。
こんな自分でも、人からほめられると、うれしい。何度か、Y君にほめられたり、励まされたりした。
そんなわけで、たまには、店を良くしようと自主的に動いた。Y君という存在は、たいへんありがたかった。
しかし、勤務時間のずれで、Y君と会わない日々が続いた。
そんなときでも、たまには自主的に掃除をした。
その時に、気がついた。
「脳内Y君」にほめられた、と想像すると、すこし気分が良くなる。
「Y君」にほめられたときに10うれしいとすると、「脳内Y君」からほめられたときは、5うれしい。
そして、それで満足だった。
──ああ、自分は無人島に漂流してもうまくやっていけるな、と思った若い日──。