「明日がやってくる」という安心感

「明日がやってくる」という安心感があるから、眠れるのだ。──なぜか、唐突にそう思った。

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大昔、自分なりに不器用にレンアイをしていたことがあった。そしてある日、突然終わることになった。

初めから大成するはずが無いコイだったが、あまりにも唐突だった。つらくて悲しくて、泣いた。カノジョも泣いた。二人して馬鹿みたいに大泣きして、大泣きして、永遠に泣いていたかったが、時間は無粋にも有限だった。

カノジョの門限が迫っていた。──今考えると、そんなことは無視すればよかったような気もするが──。「このまま二人で遠くへ──」などと言えない甲斐性無し・金無しの自分は、50ccに二人乗りで、寒空を飛ぶように走った。実際、少し、飛んでいたのかも知れない。

カノジョの家の側に到着し、とうとう別れる時が来た。ああ、本当に「別れる」のか──。


人間は、二度死ぬという。一度目は、肉体が死んだとき。二度目は、「自分という存在」が誰からも忘れられたとき──。「織田信長」や「アインシュタイン」は、半分、生きている。

では、肉体が生きていても、存在が忘れられたら──。「別れる」ということは、カノジョの中で自分が死ぬことではないか──。


結果、その日は、「……じゃぁ、これからも、会おう……」ということになり、別れることはなかった。

家に帰って、目の周りに残った涙の跡を拭き取る前に思ったことは、「──こんな時でも腹が減るのか」。すぐに、何かを口にして、顔を洗って、寝た。ベッドの中はひとりだったが、「終わり」ではないうれしさで、いっぱいだった。

その後、一ヶ月と経たずに、そのコイは、完全に、終わった。カンプ無きまでに、惨めに。

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ということがあって。で、その時に学んだいろいろなことの中で、一番大きかったのが「どんなときでも腹は減る」だった。笑い話やネタではなく。

あのレンアイ(恋愛や恋というにはあまりにも未熟なのでカタカナ)から、いろいろとつらいことがあった。しかし、ちゃんと腹は減るし夜は眠い。

「どんなにつらかった夜も、寝たらちゃんと朝が来たじゃないか──」


本当に心配で不安で眠れない、ということは、過去30年以上起こらなかった。ほとんど、徹夜をしたこともない。「自分で乗り越えられない壁は来ない」ということだ。